「一生物」の話

よくお店で商品を購入する際に店員が口にする言葉、「一生物」これに関してあまりにも酷いな、と思うことが多いので、ちょっと記事を書くことにしました。

まずはじめに言っておきたいことがありますが、一生物はどんなものでも扱い方によってはなり得ます。たとえば、食品ですら、乾燥&冷凍してごく低温で保存してしまえば、50年ぐらいはもつものもあります。そしてそういうものを一生物です、と言って売るのはおかしいし、そういう屁理屈的なものはここでは考慮しないことにします。テセウスの船のようなものも同様です。

「一生物」の定義

「一生物」とはいいかえると、「死ぬまで使える」ということになるでしょう。私の感覚で言えば、大体、50年普通に使えれば一生物、と言って差し支えないのではないか?と思います。平均寿命等から考えても50年ならば間違いないと思います。

「一生物」と言われるもののジャンル

私がよく言われると思うものを挙げていきましょう。

土地、家屋、金(GOLD)、ジュエリー、車、時計、カメラ、筆記具、衣類、革製品、玩具、食器、家具、書画骨董。このあたりがよく一生物と言われるのではないでしょうか?

では1つずつ検討してみたいと思います。

土地・・・9点(一生物度数)

土地は一生に一度の買い物と言われています。かなりそうだと思います。しかし、福島第一原発の事故やPFAS汚染、限界集落化した団地、火山の噴火等の自然現象による土地の破壊が有り得るように一生物と言えない場合も稀にあります。土地で大切なのは柔軟に売買することなのですが、売買の手数料は安いわけではないですし、なかなか難しくもあります。今はまだありえませんが、海面が上昇した場合には低地は土地そのものがなくなってしまうかもしれません。ただ一生物である可能性はかなり高いほうだと思います。

家屋・・・8点

家屋もよく一生物と言われますが、それはメンテナンスを正しく行うことが前提です。そして土地とくっついているものですので、土地がだめになってしまった場合には自動的に家屋も一生物ではなくなってしまいます。また、中古で購入した場合にはそもそも建物の寿命として一生物でなくなる場合も多々あります。

分譲集合住宅の場合には、近所とトラブルになることもあるでしょう。その場合には主観としての価値が大幅に低下してしまい、手放すことになるかもしれません。

家屋は意外と一生物に近いですが、100%一生物ではないと私は思います。

金(GOLD)・・・10点

金は一生物である可能性が非常に高いです。ただし、それは海から金を安価に採集する技術が生まれないことや、錬金ができないことが条件です。

核融合が実現化しそう、というニュースを散見するようになりましたが、実際に実現したらエネルギー問題が解決します。エネルギー問題が解決した場合には海からの採集コストのようなものが度外視できるようになります。また核融合や核分裂で金を作る試みも再び行われるでしょう。金は実際に工業的にも必要な材料でもあるので、大量に作られる可能性はないと言えません。ただ、これから50年以内にそれが行われる可能性は低いように思われます。

また交換価値としてでなく「思い入れ」として金を保持するのなら当然一生物になり得ます。

ジュエリー・・・9点

これは金と同様に一生物になりえますが、買った瞬間に大幅に価値を失うものであることも確かです。そしてジュエリーにはデザインの流行があり、一生つけ続けられるジュエリーというのは稀で、王族が持っているようなデザイン度外視の貴石の力だけで美しさが成立しているようなもの、になるでしょう。流行なんて関係ない、私はこのデザインが好きなんだ、であれば、当然一生物になります。

交換価値として考えた場合には、いまは人工貴石の技術も進んでおり、いずれ交換価値が下がってしまう可能性もあるかもしれないとは思います。

そして、宝石はぶつけると割れます、稀ですがたとえそれがダイヤであっても。しかし、破損の心配がほとんど無く、また修理が必ずできる一生物である可能性は非常に高いジャンルだと思います。

車・・・3点

車を50年維持するというのは新車で買ってもとてつもなく大変です。維持したい車がガソリン車の場合、もしかしたら電気自動車が全盛になってしまうとガソリンスタンドがなくなってしまうかもしれません。それにタイヤも適合するものが売られなくなるかもしれません。エアクリーナーやオイルフィルター等のパーツも純正品はなくなってしまうでしょうし、オリジナルの形とは異なった形で車を維持していくようになることは想像に難くありません。そもそもクラシックカーを乗り回す趣味は「超富裕層の遊び」です。維持費に糸目をつけないのであれば、可能だとは思いますが。50年前の車というと、1970年ぐらいの車です。中古車もそのあたりの車はかなり台数が少ないです。

維持したい車が電気自動車であっても、衝突の安全基準や環境性能、すべてが古く、税金は高くなっていくでしょう。またインフラが対応しなくなり不便を強いられるでしょう。バッテリーの寿命が来たら対応するバッテリーは手に入らなくなるかもしれません。

それでも情熱があれば・・・あまり現実的ではないですが、かなり無理をすれば一生乗り続けることはできるのかもしれません。

時計・・・4点

時計を50年維持するというのも並大抵のことではないです。1970年代の時計というのは今も市場にたくさん出回っていることは確かです。しかし、クオーツなら内部で使われているプラスチックの部品が多くそういう部品は経年劣化してくでしょう。またバッテリーが必ず経年劣化します。対応するバッテリーを50年作っているかどうか?にはかなり疑問が残ります。

では、機械式時計ならどうか?現在の高級機械式時計の会社は基本的にアクセサリーブランド化しており囲い込みも激しく維持するのもいろいろな縛りがあることも問題になってきます。たとえば、OH時には必ずケースをポリッシュ(ライトポリッシュ含む)しなくてはいけないという縛りであるにも関わらず3年に一度のOHを推奨していたりする、そんなことをしているとどんどんケースが痩せていきます。場合によってはケースそのものを交換することすらあります。時計の場合にはテセウスの船的である要素が強いように思えます。そして社外で修理すると正規で修理を受けられなくなる場合もあります。

また永久に修理を保証しているブランドもありますが、その修理はものすごく高価で、下手するとその時計の流通価格よりも高かったりします。これも車と似たような感じで維持費がかかるものですが、車よりは遥かに安いこともまた事実です。

カメラ・・・2点

カメラをこれから一生維持するというのはものすごく大変だと思います。それはカメラが電気製品になってしまったからです。電気製品ということはバッテリーの問題がつきまといます。それに加えてカメラの場合にはカビの問題や撮像素子の経年劣化、液晶の寿命、ゴムとして使っているシールの悪化、シャッターの劣化等、その部品が生産終了すると代替が効かない物が多く、車以上に維持は厳しいでしょう。

レンズは一生物といいますが、カメラ会社の都合によるレンズマウントの変更というのがあります。それに可動部を持つ製品はOHは必須です。バルサム切れやシールの交換、レンズの駆動方式が電気式のバイヤイワ方式ならマウントが不適合になれば使えなくなる可能性もあります。

一生物か?といわれると、一部のレンズはそうなり得ますが、カメラは多分無理で、総合すると2ぐらいが妥当なのではないでしょうか。

筆記具・・・6点

筆記具は万年筆、ボールペン、が主に挙げられます。鉛筆などはそもそもが消耗品なのでこの場合は考慮しません。

万年筆は文字を書く文字数にもよりますが、一生物とはいい難いと感じます。ここの記事が参考になります。もちろん、ペン先を交換してもらうことはとても高価ですが可能ではあります。

ボールペンの場合にはリフィルを生産しているうちはいいですが、リフィルの生産が終わったら使えなくなるでしょう。G2規格と4C規格のものなら大丈夫なように思われますが、これから50年生産が終わらないとは考えづらいようにも思います。

こう考えると一生物ではないのですが、万年筆に限って言えば単価が車などに比べると遥かに安いのと構造が簡単なのと、車やカメラ等とは違い技術的な進歩が止まっているので素人でもなんとか修理できる部分があり、そう言う意味で一生物になりうるのではないかと思っています。

衣類・・・1点

衣類の最大の問題は着るものである以上、着ればどこかに擦れてその部分の繊維がすり減るという問題です。

衣類でいつも思うのは高価な繊維であればあるほど繊維は細く、すり減りやすいということです。たとえばカシミヤのニットなどはみるみるすり減ってしまうものです。黒いコートの上にキャメルのマフラーを巻いたりすると、そのマフラーの繊維がコートに結構付きますよね?それは減っているということです。そうして服はどんどんすり減っていているのです。一部のツイードの生地の服などは耐久性は高いですが、擦れる相手の繊維はたまったものではありません。カシミヤのマフラーはカシミヤやシルクの服を着る人が身につけるものなのです。

一部の革のジャケットなどは比較的耐久性があるので50年もつかもしれませんが、こちらは管理も大変でカビを生やしたりしないようにしなければなりませんし、手入れもしなくてはなりません。また着れば汗を吸い傷みが出ます。

50年持てば一生物と言えると思いますが、1970年ぐらいに作られた服のようなものは繊維が脱脂されて弱々しい感じになっていることが多いです。着はじめたらすぐにだめになってしまうのではないでしょうか?わたしはそれぐらいに織られたデッドストック生地でできた服を持っていましたが、数年で擦り切れてしまいました。また、紫外線による劣化もかなりあります。紫外線を繊維が浴びるとぼろぼろになっていくのです。また虫食いも起きます。自分の体型の変化の問題もありますし、流行もあります。

服は長持ちすれば良いな、程度に思っておいたほうが良いですね。

革製品・・・2点

多少は経年変化に耐えうる服、それが革製品です。しかし革製品は使えば使うほど経年変化して劣化していきます。それを味とも言います。そして最後には革が裂けてしまいます。

純粋に素材としての強さから衣類よりは耐久性はあるでしょうが「一生物にしたければ飾っておけ」というのが本当のところだと思いますし、そうしている方も実際いるらしいです。しかし50年持つか?といわれると、保管状態がちゃんとしていればもつような気もしなくはないです(ロシアンカーフ)。

でもとても保管が難しいんです、革製品は。飾っておいたとしてもホコリが付くと、そのホコリが革を脱脂して乾いてくると言います。正直、一生物にするというのはあまり現実的ではありません。それに使うと伸び縮みさせるのでその部分が少しずつ傷んで裂けてくるんです。使う頻度をひたすら減らしてちゃんと管理すればもちそうだなとは私も思います。服よりは多少はマシというレベルなのが革製品だと思います。

革製品は一生物だ!!という人に対して「では時計の革ベルトを一生替えない人はいるのか?」と聞いてみるといいと思います。

玩具・・・7点

玩具は玩具の種類にもよります。テディベアなどのぬいぐるみは100年ぐらい前のものも存在します。また将棋盤のようなものも保つでしょう。触っても壊れないような構造のものも多く、プラスチックを使っていない古典的なおもちゃなら一生持つのではないでしょうか?紙でできたトランプなどは消耗品なので無理ですが、バックギャモンの盤やサイコロ、この手のゲームに関しては一生持つものがとても多いと思います。

他にブリキのおもちゃや、ビスクでてきた人形なども経年変化に強く、50年ぐらいなら保つものも多いです。

しかし、たしかに一生保つものなのですが、部品をなくしたりということがあったり、そもそもが遊ぶものですし、なので、一応7としました。

食器・・・5点

食器は竹や木でできたものですら、50年保つ可能性が高いです。何しろ、千利休の作った「よなが」という竹で作られた花入れが今でも残っているくらいです。陶器のものは千年以上前のものが発掘されるくらいですし、経年変化にはとてつもなく食器は強いです。日用品なので割れたり欠けたりもしますが、それも修理ができますし、味にもなり得ます。こういう事が起こるので、食器は若いときに買ったものがあるという方も多いのではないでしょうか?

食器は経年変化としてはほぼ一生物なのですが、なかにはプラスチックの持ち手のものがあったり、食器ですからフォークとナイフが擦れあって傷が入り「磨く」を、繰り返すうちに痩せてくる、というようなことは起きます。また焼き付けた柄が剥がれてくるということもあります。なので、デイリーに使って一生持つ、というのは難しいかもしれません。

書画骨董・・・9点

これまで紹介したものの中と違い、書画骨董はもっとも経年変化を検討して制作されているジャンルです。なので経年変化にはとても強いですし、そもそもあまり触るものでもないです、飾っておくものなので。そう言う意味では書画骨董の類は虫食いやカビ、焼失などに気をつけさえすれば一生物であると言っていいと思います。ただしその交換価値は、あなたの目利きに依存してしまいますが。

おわりに

いかがでしょうか?色々な反論もあると思います。「一生物」大好きなマニアの方はきっと同じジャンルのものをたくさん持っていると思います。そう言う方の品は一生保つのかもしれません。でも物は使うもので使ってこそ価値があり(使用価値)消耗していくのです。

私は「一生物ですよ」と明らかな嘘をついて高い商品を売ろうとしてくる店員に、お前本当に未来の環境ことをちゃんと考えているのか?この繊維の性質までも知り尽くして言っているのか?みたいなことをごちゃごちゃ考えてしまうので、なんとなくこういう文章を書きたくなりました。