ドレスウォッチの話

コロナ禍で大量にだされた補助金、それによって巷では高級時計が売れまくっていましたが、2023年8月現在少しだけそれに陰りが見えてきた気がします。しかし、まだまだどこのロレックスにも行列があります。

そんななかで「デイトジャストというドレスウォッチ」はという文をみかけてオヤッ?と思ったことがあるのでその歴史的な流れもふまえて少し考えてみたいと思います。

良く言われるドレスウォッチの定義とは?

日本語で書かれたドレスウォッチの定義を探してみると、

  1. 薄型で2針、または3針
  2. 薄型で小さい
  3. 秒針がないものは時間を気にしていないというアピールになる
  4. ベルトはなるべく革ベルト

という感じです。

海外のサイトには

  1. 薄型で小さい
  2. 革ベルト
  3. 貴金属

という感じで書かれています。
この、秒針がない=時間を気にしないというアピールになるというのは日本独自の面白い解釈ですね。

そもそも、海外と日本では服装に関する意識がとてつもなく違います。フォーマルな服であるタキシードを着たことがある人は日本人では稀だと思います。そして、ドレスウォッチはそういう服を着る時に着用すべき時計とされています。つまり日本人にはあまり必要のないカテゴリの時計だと私には感じます。

そもそもドレスウォッチって昔からあったのか?

私のイメージするドレスウォッチというカテゴリは昔からあったと思っています。私の主観で言えば

  1. 非防水(日常生活用防水以下)つまり運動することを想定していない
  2. ダイヤが入っていたり機能とは無関係な装飾がある
  3. 貴金属でできている

という感じです。革ベルトであることはどちらでもいいと思いますが、金属ベルトであった場合には貴金属であったほうがいいと思います。金属のベルトでも、古い高級な時計でよくあるミラネーゼブレスレットやダイヤがびっしり埋まったものはドレスウォッチだと思います。革ベルトに拘る意味はまったくないと思います。(参考:Vacheron Constantin ref.7391, Vacheron Constantin Lord Kalla

女性用のドレスウォッチ

そういう時計は純然たるドレスウォッチであると思います。そういう華やかなシチュエーションでつけるのを前提に作られた時計ということです。会社につけていったりするのにはあまり向いていないですね。

違和感の正体

本来腕時計は汎用品だったと思うのです。いついかなるシチュエーションでもつけていて良いもの、だったのです。実際、今でも厳密にはそうです。ロイヤルファミリーの葬式に金属ブレスのクロノグラフをつけている人がいたりする。多分デジタルウォッチでも問題ないと思われます。時計にドレスコードなんてそもそも存在しないんです、なのにそういうカテゴリを作ってしまった、なぜか?

本質的にはスポーツウォッチの流行が原因だと思います。スポーツウォッチとはなにか?それはダイビング用に作られた潜水時間を知るためのダイバーズウォッチだったり、飛行機に乗ったりした時に距離を計算したりする目的で作られたクロノグラフだったり、ツールウォッチ、とも言いますね。そういう時計が大流行したからだと思います。

そういう時計ばかりが売れる、時計に興味がある人はそういう時計しか買わない、しかし他の時計も売りたい、そういうときに、高級レストランにダイバーズウォッチをつけていっても問題がないにも関わらず、他の時計も売りたくて作られた言葉、それが今のドレスウォッチだと思うのです。

そこで作られたドレスウォッチという言葉は私の考える意味とは逸脱し、「スポーツウォッチでないもの」という意味になってしまっています。それで、庶民の労働者用につくられた、壊れにくい汎用時計までもがスポーツウォッチでないばかりに「ドレスウォッチ」と呼ばれることがあるようになってしまったわけです。

デイリーウォッチ

ではセイコー5のようなタフで壊れにくく何に使っても問題のないような時計をなんと呼べばいいでしょうか?私はデイリーウォッチとか汎用時計(Versatile Watch)とかそういう言葉で呼ぶのがいいのかなと思います。本物のドレスウォッチというのはそういうフォーマルが要求されるシーンや華やかさが要求されるシーンを想定してつくられた時計をそう呼ぶべきであろうと私は勝手にそう思っています。なんせ、「ドレス」なのですから。